休みの日は街を離れて束の間の逃避行へ。行き先は標高1050メートル、ダケカンバに囲まれた58㎡ほどの小さな小屋だ。

●ダケカンバの林の小さな隠れ家
小屋の間取りは一筆書きできるくらいのシンプルなワンルームと屋根裏部屋。暖房の薪ストーブはおしゃれで味もあるが、リモコンのスイッチひとつで温まるって訳じゃない。1000㎡近い敷地のあちこちには、日当りの良い場所に育つと言われるダケカンバの木々が、太陽目がけて我も我もと枝を伸ばしている。
この小屋には個室がない。だから恋人や家族、仲間と一緒の時は各々のプライバシーの確保は難しい。暖房用に薪を割ったり、定期的にストーブの手入れも必要になる。邪魔にならないよう敷地の笹をはらったり、その間虫や小動物とコンニチワをすることもあるかもしれない。

●不便を楽しむ小屋
ここまで聞いて、あなたは「ムリ！」と思うだろうか。それとも「めっちゃいいやん！」とワクワクするだろうか？
そう、この小屋は不便をおもしろがる家だ。小さな家の中ではプライバシーのないかわり、大好きな人たちの笑い声が響き渡る。運動不足の体に薪割りはキツイが、積み上がる薪に久々の達成感を感じる。敷地の手入れの合間に飲むコーヒーも、労働の後は格別に美味い。葉擦れの音や鳥の声の心地よい調べが、ここではテンションを上げるBGMがわりになる。

●夜は露天気分でゆるりと一杯
小屋の滞在中は敷地の手入れをしたり、釣りに出たり、愛犬に連れまわされたりと思いの外忙しいものだ。少し疲れてしまったら、夜は板貼りの風呂場にたっぷり湯をはって、窓に縁取られたダケカンバの雄姿を肴に露天気分でぐいっと一杯。自分の小屋の風呂でなら、少しの行儀の悪さは大目に見てもらえるだろう。
風呂で少しのぼせたようなら、デッキでしばし月の鑑賞会と洒落込もう。普段はなかなかゆっくりと月を見上げる時間もない。自分が生まれる前の時代に、あそこで人がジャンプしてたんだよなあとか、とりとめもないことを考えながら。